外国人解雇トラブル

外国人にも、日本人と同じように労働法令が適用されるため、解雇についても、日本人同様の注意が必要です。
解雇については、一般的には、①客観的に合理的な理由と②社会通念上相当であることが求められます。

外国人労働者の解雇が認められるためには

たとえば、外国人従業員を解雇する場合、具体的に①と②が認められるのは、以下のような事情が考えられます。

・長期間の無断欠勤、遅刻、早退を繰り返し、指導しても改善が見られず、今後も改善の見込みがない。
・度重なる指導をしても、勤務態度の不良が改まらず、会社の指示に従って働かない。
・会社のお金や物品を横領する。
・重大な経歴を詐称して入社していたことが判明する。
・傷病により全く働けず、その状態が一定期間以上継続し、他の部署などでの勤務を考慮しても復帰できる見込みがない。
・虚偽の理由により働かず、再三話し合いをしても働かない。

解雇については,これまで多数の裁判例がおりますが、概ね経営者の方にとって非常に厳しい要件が課せられる内容になっています。
特に、従業員に対する指導については、指導したこと、指導内容、回数、指導後の改善の有無、改善の意欲などを証明しないとならないため、経営者の方にとっては大きな負担となります。
また、解雇は、30日前の予告かそれに代わる30日分の予告手当が必要です。

イラン国籍の従業員に対する懲戒解雇が認められたケース(東京地判H28.1.18)では、麻薬を使用している上司の下で働きたくないという理由で当該従業員が、労務提供を拒否していたところ、上司は麻薬を使用しておらず、会社と当該従業員が何度話し合っても当該従業員が労務提供を拒否したため懲戒解雇としたという事案でした。
さすがにこのケースで解雇できないのは不合理です。しかし、一般的に裁判所は経営者側に厳しい判断をする傾向があるため、訴訟や労働審判を起こされないように、仮に労働審判や訴訟を起こされても解雇が有効となるような証拠を確保しておくことが重要です。

トラブルのない解雇のために

まずは、いきなり解雇ではなく、退職を勧めることから始められるのがいいと思います。
これは、一方的に契約の解除を通告する解雇予告ではありません。退職勧奨といい、従業員の自由意思による退職を促すというものです。
経営者が、辞めてほしい理由を誠実に伝え、退職までに十分な期間を与えるか、解雇予告手当のように一定の手当を支払うなどの対応をとれば、退職に合意してくれることがほとんどです。
ただ、退職勧奨の際に、「解雇」、「やめろ」、「やめないと~(従業員にとって不利益なこと)」という言葉は出してはいけませんし、退職を強要するものであってもいけません。
外国人の場合は、転職が日本人に比べて難しい、職を失うなら帰国することも考えられます。そこで、退職において、転職活動期間を与える、帰りの飛行機代を負担するといった対応も考えられます。

退職勧奨に応じないが、どうしても退職してほしい場合は、勤務が良好になるよう繰り返しの指導が必要です。
裁判例を見ると、一度の指導ですぐ解雇した場合、解雇が無効になることが多いので、何度も繰り返し指導をする必要があります。
また、指導内容を客観的な証拠として残すことも重要です。たとえば、スケジュールに○○さんと面談などと記録し、指導事項データを作成、当該従業員に提示し、保管しておきましょう。役員や人事担当者間でデータを共有しておくことも有効です。関係者が複数いれば、後に証人となってもらえます。
なお、外国人の場合は、通訳や翻訳を通して、従業員の母語による退職勧奨や指導を実施しておいた方が認識の齟齬が生じず、トラブル防止になります。

技能実習生と解雇

技能実習生は、開発途上国等への技能移転を図ることを目的として国の制度として設けされているため、解雇には特別な注意が必要です。

・有期労働契約と解雇
技能実習生は、在留期間に限りがあるため有期労働契約により雇用されていると思われます。有期労働契約の場合、その雇用期間中は、やむを得ない事由がある場合でなければ解雇できないと規定されています(労働契約法第17条第1項)。

・雇用主に課される負担
技能実習生については、急激に悪化した経済情勢においても、技能実習生が当初の研修・技能実習計画を全うして帰国することができるよう最善の努力が必要になります。
また、技能実習の継続に最大限努めたにもかかわらず、やむを得ず受入れを中断する場合には、技能実習生に丁寧に説明した上で、地方入国管理局等に申し出るとともに、新たな受入れ機関を探す必要もあります。
新たな受入れ機関が見つからない場合には、(財)国際研修協力機構(JITCO)に連絡し、協力・指導を受けます。
最終的に、やむを得ず技能実習生を離職させる場合には、30日前までの予告、解雇予告手当の支給などの労働法令を守った上で、当該外国人の氏名、在留資格等をハローワークへ届け出ることが義務付けられています。

厚生労働省のサイトにも情報がありますのでご参照ください。

経済情勢の悪化による技能実習生の解雇等への対応について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/taiou/kaiko-taiou/index.html

特定技能と解雇

特定技能で外国人を受け入れる場合も、各種法令が適用となるため、解雇については①客観的に合理的な理由と②社会通念上相当であることが必要になります。また、有期労働契約を締結している場合は、技能実習同様、その雇用期間中は、やむを得ない事由がある場合でなければ解雇できません。

特定技能の解雇について、特に注意が必要なのは以下の2点です

①解雇前後の届出
解雇する前に,出入国在留管理庁に受入れ困難となったことの届出をすること、
解雇した後は,出入国在留管理庁に特定技能雇用契約の終了に関する届出をすること
が義務づけられているため、各届出を忘れないようにすることです。
②自発的ではない離職者を出さない
特定技能で外国人を受け入れる要件に、特定技能での雇用契約をする日の1年以内またはその締結以降に、同種の業務に従事していた従業員(日本人を含む)を定年や懲戒解雇、自主退職以外の理由で離職させていないことがあります。つまり、自発的でない離職者がいる場合、特定技能での新たな外国人の受け入れが難しくなり、採用計画に狂いが生じます。
したがって、特定技能で外国人を受け入れたい企業様で、解雇を考えている従業員がいる場合は、懲戒解雇事由がなければ、自主退職を促すなどし、普通解雇は避けなければなりません。

在留期間の更新と解雇との関係

外国人従業員が在留期間を更新できなかった場合、そのまま就労させると不法就労になります。
いくら解雇が認められる要件が厳しいとはいえ、不法就労させると、不法就労助長罪に問われて大変なリスクとなります。
基本的には、ただちに解雇したとしても、雇用の経緯や経営者の方の外国人従業員の在留資格や在留期間の認識に正当性があれば、解雇は有効となると考えられます。

こんな解雇はダメ。法律で禁止されている解雇理由

法律で明示的に禁止されている解雇理由をご紹介します。

・国籍、信条又は社会的身分を理由とする解雇⇒外国人従業員の場合特に注意が必要です。
・業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇
・産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇
・労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇
<労働基準法>
・労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇
<労働組合法>
・労働者の性別を理由とする解雇
・女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇
<男女雇用機会均等法>
・労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇
<育児・介護休業法>

[参考]
労働契約法
(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(契約期間中の解雇等)
第17条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

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